放射線治療を、もっと深く究めたい。そう思ったとき、最初に迷うのが資格選びです。
治療畑に進むほど、こんな迷いが出てきます。
- 治療専門技師と医学物理士、どっちを目指せばいい?
- 資格を取れば、年収はいくら上がる?
- そもそも今の自分に取れるのか?
結論から言うと、年収は医学物理士のほうが高め。ただし、2025年から目指すには大学院が必須になりました。
私は総合病院に17年勤務し、うち14年は放射線治療の専任だった元診療放射線技師です。
第1種放射線取扱主任者を持ち、医学物理士と治療専門技師の両方を本気で目指しましたが、結局どちらも断念しました。
くろぶち数字のきれいごとだけでなく、諦めた側の本音もそのまま書きますよ
- 医学物理士の年収と1000万円の現実
- 治療専門技師との違いと目指す順番
- 2025年に変わった医学物理士への道
読み終わるころには、遠回りや消耗への不安が消え、自分に合ったペースで年収もキャリアも伸ばしていく道筋が見えてきますよ。
放射線治療を究める3つの資格


放射線治療を究めるうえで関わる資格は、大きく3つあります。
土台となる第1種放射線取扱主任者、そして専門資格の治療専門技師と医学物理士です。
同じ「治療に関わる資格」でも、立ち位置はそれぞれ違います。
第1種放射線取扱主任者
第1種放射線取扱主任者は、専門資格ではありません。
ですが、治療現場で放射線を扱ううえで欠かせない、いわば足場のような資格です。



主任者で土台を固めてから、専門資格に挑戦するのがおすすめです。
主任者資格そのものの転職での価値や勉強法は、別記事でくわしく解説しています。
放射線治療専門技師
放射線治療専門技師は、日本放射線治療専門放射線技師認定機構が認定する資格です。
照射や治療計画の実行、治療室の実務全体を高い精度で担える人を認定します。
放射線治療の現場での専門性を示す、「治療実務のプロ」の証明だと考えてください。
医学物理士
医学物理士は、医学物理士認定機構が認定する、物理・工学寄りの資格です。
治療計画の検証や装置の品質管理など、医師や技師とは別の角度から治療の精度を支えます。
認定者は全国で1,511名、うち治療専門医学物理士は93名(2024年11月時点)と、数えるほどしかいません。
私は治療の専任になり主任者試験に受かった後、「35歳までに専門資格も取ろう」と決めて資格勉強を始めました。
当時の感覚では、治療専門技師は現場の延長で手が届きそう、医学物理士は一段高い壁、という距離感でした。
医学物理士の年収はいくら?


医学物理士の年収は、診療放射線技師より高めです。
ただし、額面だけで判断すると足をすくわれかねません。まず統計を、そのあとに現場の本音をご紹介します。
統計で見る医学物理士の年収
医学物理士認定機構の就労状況アンケート(2020年実施・2022年の論文に収録)によると、平均年収は働き方で分かれます。
- 医学物理士として雇用
682万円(平均37.0歳) - 診療放射線技師として雇用(医学物理士を保有)
626万円(平均41.5歳) - 大学などの教員
713.2万円(平均39.0歳)
診療放射線技師全体の平均は、厚生労働省の令和3年賃金構造基本統計調査でおよそ547万円(平均41.9歳)。
近い年齢で比べても、医学物理士を持つ技師のほうが80万円ほど高い計算になります。
求人に表れる手当の差
実際の求人を見ても、その差は手当に出ます。
ある総合病院の診療放射線技師(医学物理士)の募集では、基本給とは別に医学物理士手当が月1万円、治療従事手当が月2万円という内訳が示されていました。
私が持つ第1種主任者の手当は、当時の職場で月5,000円ほど。専門性がそのまま手当に乗っているのを感じます。



同じ手当でも、大きな差がありますよね。
数字に出ない割の悪さ
気をつけたいのは、額面だけでは見えない部分です。
同じ調査では、月の超過勤務が診療放射線技師の約9時間に対し、技師雇用の医学物理士は約22時間と倍以上でした。
年収が高いのは、責任の重さと労働時間の長さの裏返しでもあるわけです。「年収が上がる」ことと「割に合う」ことは別物だと感じました。
医学物理士で年収1000万は可能?


「医学物理士になれば1000万円」。ネットでときどき見かける言葉。
ただ、国内の現実はもう少し冷静に見ておいたほうがいいです。
国内で1000万に届く層
先ほどの調査を年代別に見ると、高年代では1000万円台が出てきます。
たとえば、60〜64歳の平均は1050万円。教員や管理職クラスなら、45〜49歳でも1000万円を超える例があります。
ただ、これは長いキャリアと役職、あるいは大学ポストにたどり着いた人の到達点です。資格を取った若手がいきなり届く数字ではありません。
海外との違い
欧米では医学物理士は医師に近いステータスで、初年度から1000万円相当という話も聞きます。
とはいえ、理工系の博士号が前提の世界で、日本の制度とそのまま比べられるものではありません。「そういう国もある」という参考程度に留めておくのが安全です。



1000万円はゴール地点の数字。スタートでは届かないと思っておくのが安全ですよ
現場で見た物理士の実例
私の職場には、他の病院から引き抜かれてきた元技師の医学物理士さんがいました。
医師の治療計画をサポートする立場で、勤務は8:30〜17:00、時間外はほぼなし。引き抜きという経緯もあって、年収はかなり良さそうに見えました。
1000万円かどうかまでは聞けませんでしたが、専門性で評価されると待遇も働き方もここまで変わるのか、と感じたのを今も覚えています。
なお、技師全般で年収1000万円を目指すルートは、別記事で4つの道として整理しています。
【2025年】医学物理士は大学院が必須に


実はここ数年で、医学物理士の目指し方そのものが大きく変わりました。
これから挑む人には、年収の話以上に知っておいてほしい変化です。
特例廃止と大学院ルート
医学物理士の受験資格には、かつて「特例措置」がありました。一定の学歴と実務経験があれば、大学院に行かなくても受験できる道です。
私が目指していたのは、まさにこの働きながらの特例ルートでした。
ところがこの特例措置は、2025年4月1日で廃止されています。



私が選んだ独学ルートは、もう使えません。ここは必ず最新情報で確認してください。
今は、大学院で修士または博士の学位を取り、医学物理に関する所定の学修を修めることが受験の前提です。
代表的なのは機構が認定した医学物理教育コースですが、放射線技術系や理工系の大学院でも、医学物理に準じた学修があれば受験資格として認められます。
ただ、働きながら通える夜間や社会人向けのコースもあります。私の職場にも、仕事を続けながら夜間の大学院に通い、博士の学位まで取った人がいました。
放射線治療専門技師の年収とキャリア効果


医学物理士の道が大学院前提になった今、現役のまま治療を究めたいなら、現実的な選択肢は放射線治療専門技師です。
現場業務の延長線上で目指せます。ただし、「すぐ受けられる」資格ではありません。
治療専門技師の受験要件
治療専門技師の受験には、おもに次の条件が必要です。
- 診療放射線技師の免許がある
- 放射線治療の業務を通算5年以上おこなっている
- 関連学会に入会して5年以上(腫瘍学会・技術学会・技師会のいずれか)
- 直近5年で認定単位を20以上取得(うち必須10以上)
ポイントは、治療経験・学会の所属年数・単位のすべてが揃って初めて受験できることです。
思い立ってすぐ受けられるものではなく、5年がかりで条件を整えていく資格だと考えてください。
年収への効果は限定的
ここは期待を持ちすぎないよう、はっきり書きます。
放射線治療専門技師を取っても、年収が大きく跳ね上がることはあまり期待できません。資格手当が出る施設もありますが、私の職場では手当はありませんでした。
むしろ、治療を究めることには年収面の落とし穴もあります。
治療の専任になると当直に入らなくなるので、当直手当が付きません。
私のフルタイム時代は、専任手当もなく、当直をこなす技師より月の手取りで見劣りする月もありました。「究める」ことが、一時的には手取りのマイナスに働くわけです。
ただ、この点は施設や時代によって差があります。
私のいた職場でも、あとから治療の専任手当が設けられました。最新の条件は、職場や求人ごとに確認してみてください。
得られる評価と昇進
年収を大きく跳ね上げるのは難しいですが、得られるものはあります。
放射線治療専門技師は治療業務の中心を担い、周囲から一目置かれる立場です。その評価が、主任など役職への昇進につながることも少なくありません。



年収より“評価と信頼”が増える資格、と捉えると納得できます。
両資格の勉強で使った教材(当時)


医学物理士も治療専門技師も、私は働きながら独学で勉強していました。平日は1〜2時間、休みの日は4〜5時間でコツコツと。
そこで、当時使っていた教材を紹介します。
私が勉強していた頃のものなので、版が新しくなっている可能性はあります。気になるものがあったら、最新の状況を確認してみてください。(一部に現在手に入る、おすすめ教材も含みます)



私は過去問を軸に、足りない知識をこれらの本で埋めていく形で勉強していました。
- イラスト解剖学
治療専門技師の出題範囲にある解剖の確認に - 放射線医学物理学
医学物理の基礎を体系的に押さえる1冊 - 放射線治療物理学
治療物理に特化し、過去問の周辺知識を補強 - 外部放射線治療における水吸収線量の標準計測法
線量計測の実務標準で現場でも必携 - 放射線治療 基礎知識図解ノート
図解で基本を押さえられ、入門に読みやすい - 放射線治療計画ガイドライン
治療計画の考え方を確認するのに
両資格を断念した私からの提案


最後に、私自身がなぜ両方とも諦めたのかを書いておきます。
資格選びの判断材料になるはずです。
勉強を止め、戻れなかった理由
きっかけは、業務の忙しさでした。治療5年目のことです。
患者さんが増え、朝は7:30前から始業点検、業務が終わるのは21:00過ぎという日が続きました。
「体調を考え、いったん勉強は止めて業務に専念しよう」。そう考えて、一時的なつもりで手を止めました。
ところが、忙しさは落ち着きませんでした。
スタッフが3名退職して人手が減り、やがて私自身が主任に昇進すると管理の仕事も重なります。
そこへ家庭の事情も重なって、勉強を再開できないまま時間が過ぎ、結局どちらも受験せずに終わりました。
主任者の取得までは計画どおりに進められただけに、心残りはあります。
自分のスキルアップよりも、目の前の業務と生活を守る。それが、私の選択でした。
これから究める人へ
私の失敗から、ひとつだけお伝えします。
忙しくなったとき、私は「自分が頑張れば業務は回る」と考え、人一倍働きました。
その結果、目の前の仕事はこなせても勉強時間は作れず、理想のキャリアには届きませんでした。



頑張って仕事を抱え込みすぎると、自分の時間が消えていきます……。
今振り返ると、本当に必要だったのは「勉強時間を作るための行動」でした。
たとえば、こんな一歩です。
- 業務体制の見直しを、上司に提案・相談してみる
- 「知識をつけて、現場に役立てたい」と前向きに伝える
日ごろ仕事を頑張っている人がこう相談すれば、上司も無下にはできないはずです。
そして、もうひとつ。忙しいと視野が狭くなり、目の前の仕事だけに集中してしまいます。
ときどき立ち止まって、自分が将来どうなりたいかを思い出すことをおすすめします。
まとめ|どの資格をどう活かすか


放射線治療を究めたいとき、「どの資格を取り、どう活かすか」は本当に迷うところだと思います。
最後に、要点を整理しておきます。
医学物理士
- 技師より年収は高め(約626〜682万円)
- 年収1000万円は高年代・管理職・教員クラスの到達点
- 2025年に特例廃止、今は大学院で学位を取る道が受験の前提
放射線治療専門技師
- 年収より「評価と昇進」の土台になる資格
おすすめの進め方は、まず治療専門技師で評価を固め、本気で年収を上げたいなら、医学物理士を見据えて大学院へ、という順序です。



迷ったら「現役で取れる治療専門技師から」がおすすめです。
そして、何より目指すなら動けるうちに。一度諦めた私だからこそ、そこだけは強く伝えたいです。
次の一歩として、年収とキャリアの全体像をつかんでおくと、自分が進む方向がはっきりします。
まずは下の記事からどうぞ。





